今回ご紹介するのは、
「木を植えた男」
原作:ジャン・ジオノ、絵:フレデリック・バック、訳:寺岡襄、あすなろ出版1989⇒
です。
大変有名な物語「木を植えた男」の絵本。
教科書にも出てくる絵本ですが、
ひとたびページをめくれば、
すぐにこの絵本が子供だけに向けられたのではないことがわかります。
知らぬ間に読む人を物語の中へと引き込む絵と言葉。
決して飾り立てることのない絵と言葉の中に、
人を惹きつけてやまない力を感じます。
舞台はフランスの山の中、
時は1913年ごろにさかのぼります。
ひとりの若者が歩き続けてたどりついたのは、
吹きすさぶ強風の中に打ち捨てられて廃墟となった村。
水をもとめて若者は、
どこまでも続く枯野をさらに歩き続けます。
そこで出会った羊飼いの男。
口数少ないこの男は、
まるでその男がくれた水のように、
清涼な命の水を思わせました。
一人息子と妻を立て続けに失った男は、
荒地に木を植え続けていました。
若者が見ていると、
山肌に鉄棒をつきたてては、
前の晩に選りぬいたどんぐりを埋めこんで丁寧に土をかぶせます。
聞けば3年前から木を植え続けているとのこと。
それまでに10万個の種を植え、
そのうち2万個が芽を出して、
これもまた半分は動物にかじられるなどして駄目になるだろうといいます。
男は若者に言いました。
「もし神さまがこのわしを、もう30年も生かしてくださるならばの話だが……、
そのあいだ、ずうっと植えられるとすれば、今の1万本なんて、
大海のほんのひとしずくってことになるだろうさ」
その後、
若者は第1次世界大戦に従軍します。
一方、
男は第1次世界大戦中も、
第2次世界大戦中も、
ただひたすらに木を植えつづけました。
かつての若者が最後にこの男を訪れた時、
はじめて出会った時から30年以上もの月日が流れていました。
いつかの道をたどると、
あまりにも違う風景に、
若者だった男は道を間違えたのではと思うほどでした。
甘い香りのそよ風。
森の木々がさざめく声。
青い穂の麦畑
牧草の緑。
廃屋の後に建てられた新しい家々。
「戦争という、とほうもない破壊をもたらす人間が、
ほかの場所ではこんなにも、神のみわざにもひとしい偉業をなしとげることができるとは。」
第1次世界大戦後、
1年とおかずに男をたずね続けた若者ですが、
後になって知りました。
「どんな大成功のかげにも、逆境にうちかつ苦労があり、
どんなに激しい情熱をかたむけようと、勝利を確実にするためには
ときに、絶望とたたかわなくてはならぬことを。」
無力感にうちひしがれるとき、
日々の単調とも思える繰り返しに人生の意味を思うとき、
暗闇をひたすらに歩かなければならないように感じられるとき、
ページをめくりたい1冊です。
お読みくださりありがとうございました。