東洋医学(日本の伝統医学)とコロナウィルス(COVID-19):新たな時代にむけた産業・経済のあり方への可能性

伝統医学

(冒頭の写真はウイキョウの花。果実は漢方薬に使われる)

ここしばらくの間に、日本の薬用植物や、
中国・韓国・台湾での伝統医学によるコロナウィルスの予防・治療の
実践例について書かれた漢方医学の記事などを目にした
(漢方医学は日本の伝統医学である。後述)。

驚くとともに、
身近な植物や日本の伝統医学の中に、コロナウィルスに
大変有益な知恵があるのではないかと気になりはじめたところ、
ふと思った。

身近な植物や、日本の伝統医学について、
なぜ自分はこれほどまでに知らないのだろうか。

日本の伝統医学が同じ医学でありながら西洋医学と同格に
あつかわれていないように思われるのはなぜだろうか。

そこで、そのことを調べてみようと思い立った。

期せずして長いレポートのようになったが、
この記事を書く前と今では、伝統医学(や民間薬)に対する考え方は
大きく変わった。

伝統医学を越えて、自分のものの見方自体に大きな変化が
起こっているかもしれない。

「無知の知」。
この言葉を思い出した。

お時間のない方は、
コロナウィルス(COVID-19)に関連する記事など」の項だけでも
ぜひお読みいただけたらと思う。

医療従事者・研究者の方々によって貴重な情報が書かれた論文などを
ご紹介している。

私は医療従事者ではなく、医学を学んだこともない。

理解が不十分な点もあるだろうと思う
(また、記事タイトルに東洋医学と民間薬の文字が入っているものの、
手が回らずに多くは漢方医学への言及にとどまった)。

関心のある方はさらにご自分でお調べいただければと思う。

  1. 東洋医学とは
    1. 東洋医学とは
      1. 1.東洋医学とは
      2. 2.漢方とは
      3. 3.日本の特徴
      4. 4.漢方の特徴
      5. 5.感染症と漢方
    2. 民間薬とは
      1. 民間薬と漢方薬との関係
  2. 漢方医学に関するデータの収集が困難
    1. 大きく2つの理由があると思われること
      1. 歴史・制度・その他漢方医学そのものとは関係のない理由
      2. 漢方医学の特色による理由の可能性
      3. 東洋医学のエビデンス収集の動き
    2. まとめ
  3. コロナウィルス(COVID-19)に関連する記事など
    1. 「COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)」
    2. 「中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告」
    3. 【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割
    4. “新型コロナウイルスへの対策に対する緊急提案:木酢・竹酢の抗菌・抗ウィルス機能について
    5. 民間薬について
    6. まとめ
  4. なぜ西洋医学が日本で主流となったのか:日本における漢方の歴史
    1. 5世紀半ば
    2. 室町時代~宣教師から西洋医学が伝わる
    3. 江戸時代~新時代の学問としてのオランダ医学(蘭方)
    4. アヘン戦争(1840~1842)
    5. ベリー来航(1858)から戊辰戦争(1868~1869)
    6. 明治維新後(1868~)
    7. 医制発布(1874)から第2次世界大戦後
      1. 1874(明治7)年 「医制」制定
      2. 1883年 医師免許規則が定められ「医制」が全面的に実施
      3. 1895年 漢医継続願の改正法案が出されたが否決
      4. 1933(昭和8)年「医師は漢方を標榜して門戸を張ってはいけない」との内務省令
    8. 1970年代以降
    9. 按摩・鍼灸はなぜ残ったのか
    10. まとめ
      1. 米国における西洋医学以外の医療利用についての実態調査
  5. 世界の伝統医学をめぐる動き
    1. コロナウィルスについて
      1. 中国
        1. 江夏方艙医院(臨時治療施設)
      2. 韓国
      3. 台湾
    2. 世界的な気運の高まり
      1. 2010年ISOに中医学の委員会が発足
      2. 2019年WHOの国際疾病分類(ICD-11)に東アジア伝統医学(中・韓・日)が導入
  6. 漢方をめぐる日本の状況
    1. 漢方業界の現状
      1. 国内漢方製剤の生産金額と生薬輸入量
      2. 生薬の平均価格
      3. 生薬の日本における保険薬価
      4. 漢方・生薬およびその製剤類を扱う製造販売企業数
      5. 生薬について
    2. 国家戦略について
    3. 漢方医学そのものが普及したとはまだいえない
    4. 漢方医学についてのデータが少ない・取りにくい
    5. 生薬栽培:薬価切り下げ、生薬の自給率の低下、事態改善への動き
    6. 医学教育
      1. 医師国家試験の専門機関設置の検討について
    7. 世界の伝統医学の中で日本の漢方が存続するために
  7. 喫緊の課題として:生薬の自給率の低下(12%)と長期間かかる生薬栽培の実際
  8. これからの時代における持続可能な産業・雇用創出の可能性
  9. おわりに
  10. 参考資料

東洋医学とは

まず日本の伝統医学である漢方は、東洋医学(東アジアの伝統医学)に含まれる。
そこでまず東洋医学とは何かについて触れる。

東洋医学とは

1.東洋医学とは

以下コトバンクから引用する。
広義には東洋で発祥し,発達した医療体系のことで,中国系,インド系 (アーユル・ベーダ) ,
アラブ系 (ユナニ) などが含まれる。しかし,一般的には中国系伝統医学をさし,ヨーロッパ,
アメリカで体系化された現代医学の主流を西洋医学というのに対して用いる。狭義の東洋医学は
気と血とを人体の二大生理因子とし,中国の自然哲学である陰陽五行説を理論的支柱として
組立てられた医療体系であり,患者の自他覚所見を総合した「証」に,特定の治療手段である
「方」を対置させている。治療法には薬物療法,食餌療法のほかに鍼,灸,あん摩,指圧などの
物理療法がある。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典:コトバンク

2.漢方とは

中国の伝統医学の影響下に日本で発達した医療体系で,漢方医学ともいう。
(コトバンクより引用

同じく古代中国を起源として中国で発達した医療体系を中医、
韓国で発達したものを韓医という。

これらの3医学体系には共通点も多いが、細かい点はかなり異なっている。
さらに現在では医療制度や社会的背景により、これら3国の伝統医学は
大いに異なった形となっているという。

日本で発達した漢方医学は江戸時代に実学を重んじる医学として発達し、
余計な理論を排除し、患者観察を重視する医学として今日まで継承されている。

(以上※1参照)

3.日本の特徴

中国と韓国では、西洋医学と伝統医学の医師の医師免許がそれぞれ異なる。

一方、日本では医師免許は1つである。

日本では、明治時代に西洋医学を履修しなければ医師免許が与えられないことに
なった流れが現在まで存続し、漢方医学に対する独自の医師免許が存在しない。

(以上※1

4.漢方の特徴

以下、大塚敬節著「漢方と民間薬百科」(329~330頁)※2から引用する。
故大塚敬節氏は漢方医学の大家である。

漢方医学と近代医学との違い、ことに漢方医学には、
どんな特質があるのかを、ここで述べてみよう。

近代西洋医学の診断の目標は、病名の決定にあり、
そのために、病気の原因をさぐり、
その病気の本態が何であるかをつきとめるために、力を注ぐ。
病名が明らかになれば、治療方針が確立するというのが、
この医学の建前になっている。そのために、診断の技術は
すばらしい発達をとげた。

ところで、漢方医学の場合はこれと異なる。
漢方の診断は、治療法の診断である。
この病人(抽象的な病名ではなく、病気に悩んでいる個人である)
は、どうすればなおるかを診断する。

漢方の診断の相手は、病気一般ではなく、
現に病気に苦しんでいる、個々の病人である。
ところで、個々の病人は、それぞれの体質も、素因も、
生活環境も違っている。だから、同じ病気で、
病名が同じであっても、治療法は必ずしも同じではない。
漢方では個人差を非常に重くみる。
そのため、病気をなおすのではなく、
病人をなおすという立場を忘れない。

5.感染症と漢方

調べていて、多くの漢方薬は本来急性・重症疾患のためにつくられた
と聞いて大変驚いた。
以下、参考資料から引用する。

「まだ抗生物質もワクチンもなかった時代、
日本の伝統医学である漢方医学の主要な対象は感染症でした。
しかし漢方薬が重篤な感染症にも有効であるという事実は
広くは知られていないと思います。」※3

「『傷寒論』という漢方の古典の原型は約 1800 年前に成立していて,
当時の重症の流行性感染症に対する診療の方法を説いたマニュアルのような本ですが,
この中にはなんと敗血症性ショックと思われる病態に対する治療法まで
述べられています.」※4

漢方の古典である「傷寒論」の執筆には以下の歴史的背景があるという。

「後漢末(2世紀終わり頃)に中国で疫病が大流行し,
筆者,張仲景の親族の2/3が亡くなるという状況で,
感染症の臨床症状の事細かい観察とそれに応じた
漢方薬が記載されている」※5

民間薬とは

先ほどの文献「漢方と民間薬百科」にある、「民間薬」についても
調べてみた。

コトバンクには以下のように記載されている。

古くから経験的に効きめがあるとされ、民間で使われてきた薬。
世界各地の民族に固有のものがある。
(大辞林第3版:コトバンク

さらに日本の民間薬について、「漢方と民間薬百科」※2から
一部以下に要約する(注:太字はブログ管理者による)。

民間薬の材料は、植物、鉱物、動物の広範囲にわたっているが、
今日では植物を原料としているものがもっとも多い。

日本で用いられている民間薬は、大きく2つの系統に分けられる。

①古代から日本に伝わる民間伝承のもの

②民間伝承の薬で効力がすぐれたものが漢方薬として
漢方医に用いられるようになったもの

①について、古代の民間伝承薬の書物として、平安時代の天皇である
平城天皇が編さんさせた「大同類聚方」がある。

平城天皇が古くから伝わる薬が消えるのを心配して、
各地の神社や名家などの家に伝わる薬を献上させたという。

現在伝わっている「大同類聚方」には、

・後世の人が選んだ伝承薬しかのっていない
・平安時代の同書物の一部に、後世の人が補足したもの

という2つの説がある。

江戸時代に水戸光圀の命をうけた医師・穂積甫庵は民間薬について
「救民妙薬」に以下のように記している。

「大君が私に命じていわるるに、
いなかで貧しい暮らしをしている人たちのところには、
医者もなければ、薬もなく、
これらの人たちがいったん病気になると、
自然になおるのを待っているだけである。
そのため、不治に終わる者、死ぬるもの、生涯の廃人となるものがある。
これらは皆、天命でなく、非命である。
そこで、これらの人々を救うために、簡単に用いることのできる薬を集めて、
これの使用法を書いてみるようにとのことであった。
そこで私は、身辺にある手にはいりやすい薬を集めて197方にあんで、
救民妙薬と名づけ、山間、僻地の人々に与えることにした。
もしこの書が救民済世の一助ともなれば幸いである」

民間薬と漢方薬との関係

「漢方と民間薬百科」※2(74~75頁)から引用する。

…民間薬と漢方役とは、互いに関係があって、
材料として、この両者を判然と区別することはむずかしいが、
しいてこれを区別するならば、
民間薬は単味(1つだけ)のままで用いるか、
もし処方として組み合わされていても、簡単なものが多く、
医師の診断を必要とせず、しろうと判断で用いることができるものだが、
漢方薬は、いくつかの薬を配合した処方になっていて、
使用上の目標がきまっているので、
漢方流の診断にもとづいて用いなければならない。

だから、民間薬と漢方薬との別は、
その使用法にあるともいえるが、
中には、主として民間薬として用いられ、
漢方薬として用いることのまれなものもあり、
またこの逆のものもある。
たとえば、ドクダミ、ゲンノショウコ、センブリなどは、
民間薬として用いられ、漢方薬としてはあまり用いない。…

漢方医学に関するデータの収集が困難

調べていくにつれて、
漢方医学のデータの収集が困難な状況であることがわかった。

大変重要な点と思われるので、記事や文献の紹介の前に触れておきたい。
(なお、按摩・鍼灸、民間薬のデータ収集の状況については手が回らず
調査できていない。)

大きく2つの理由があると思われること

記事や文献を見るにつれて、
漢方医学にはエビデンスといわれる科学的根拠のデータが少ないことが、
西洋医学中心の医療業界で受け入れられにくい1つの理由に
なっているようだとわかった。

エビデンスが少ないのは、大きく2つの理由があるように思われた。

以下、その2つについて述べる。

歴史・制度・その他漢方医学そのものとは関係のない理由

1つは、医学そのものとは別の理由で、
医師免許を西洋医学を前提にした歴史(明治時代の医制)や制度、
その上に構築されてきた産業構造など、その他複合的な理由で
漢方医学のデータが取りづらくなっているように思われた。

厚生労働省の分析官がこのように発言している(2019年:※6

「…国にとって漢方医学に関するデータの重要性が増しています。
ところが、日本で得られる関連データはといえば、
医療用漢方製剤の販売額と生薬の輸入額くらいしかありません。
伝統医学の需要に関するデータはないのです。
これでは、医療制度の構築や医療費削減に向けた
十分な検討ができていないことになります。
漢方医学に関するデータが取れるように、
この現状を克服したいとの思いがあります。」

漢方医学の特色による理由の可能性

「東洋医学的診察の西洋医学的診察との整合性と現代医療における臨床的意義」※7
には、

「東洋医学と西洋医学とでは根本的なシステムが根底から異なるため,
東洋医学による診察・治療のメカニズムを西洋医学的手法で説明することは困難である」

と述べられている。

ただ、「東洋医学の理論で実施した事象を西洋医学的手法で客観的に検証していくことは可能」
だともいう。

また、「漢方と民間薬百科」※2には、漢方医学の特色からその効果について
エビデンスを得るのが難しい理由が延べられている(同331~332頁)。

ただ、この文献は1966年のものであり、
エビデンスを得る西洋医学的手法は当時とは状況が異なる可能性が
あることを付記しておきたい。

以下同書の内容を要約する。

漢方医学の特色として、

①漢方薬の薬効は雑多な成分の総合であって、
取り出した1つ1つの成分の作用では説明のつかないものがある

②漢方の対象は「病気」ではなく「人」であるため、
病名で治療法がきまらない

ということがある。

①については、漢方では、雑多な成分があわさった薬を
さらに複数配合して処方(薬方)が行われる。

だが、この点においても、
各薬の作用の集積がその薬方の薬効とは考えられないため、
エビデンスを得ることを難しくしている。

東洋医学のエビデンス収集の動き

一方で、現在東洋医学のエビデンス収集の動きが進んでいるという。

今、日本において「アジア健康構想に向けた基本方針」※8
内閣官房で採用され、西洋医学と組み合わせた漢方治療を世界に発信する可能性が
言及されている。

2019年度には、内閣官房により「『アジア健康構想』実現に向けた東洋医学の
エビデンス作成に向けた実証可能性等調査」が行われている(※5)。

まとめ

エビデンスがないと医学とは言えない。

このこと自体が西洋医学的な考え方なのかもしれないと思う。

ただ、理屈がわかると安心できるというのも一面でよく理解できる。

「東洋医学的診察の西洋医学的診察との整合性と現代医療における臨床的意義」※7
にはこう書かれている。

「東洋医学の理論で実施した事象を西洋医学的手法で客観的に検証していくことは
可能であり,
西洋医学を主体とした現代医療体系の中で東洋医学を普及させるためには,
必要不可欠なことだと考える」

1つの医師免許で西洋医学と東洋医学の治療を行える我が国の医療は、
その検証に適する医療でもあるという。

今何よりも必要なのは人の命を救う医学ではないだろうか。

苦しむ人を救うために、
我が国の医療制度の特色をぜひ生かしてほしいと切に願う。

コロナウィルス(COVID-19)に関連する記事など

コロナウィルスには薬がまだないと聞いていたため、
以下の記事を見た時には大変驚いた。

これらの記事や民間薬に関する記事・文献を読んだことが
今回の記事を書くきっかけとなった。

なお、以下ご紹介する漢方論文については、
最初にご紹介する論文の著者である小川医師が、

「漢方治療が最大限に効果を発揮するためには、
やはり漢方医学的診断が必要です」

と述べられていることに十分留意されたい。

「COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)」

「COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)」
小川恵子医師(金沢大学附属病院漢方医学科):日本感染症学会(2020.4.21)※3

本論文では、中国の診療ガイドラインを参考にまとめられている。
日本において入手可能なエキス剤もあわせて紹介されている。

中医学と西洋医学の併用の優位性が認められるということは
大変興味深い。スペイン風邪流行時の対処についても、
当時を経験した漢方医の著書の記述が紹介されている。

【内容
はじめに
COVID-19に対する中医学処方(漢方薬)の状況と推奨
中医学治療はどの程度有効か?
日本の感染症の歴史から学ぶことはできるか?
日本のCOVID-19感染症に対する漢方治療
結語

「中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告」

「中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告」
有田龍太郎医師(東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科)ほか
日本感染症学会(2020.4.21)※9

先の「COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)」で
紹介された「清肺排毒湯」(COVID-19に対する中医薬として今回中国で
つくられた)について補足されている。

「清肺排毒湯」を日本のエキス剤で再現する場合についても説明が加えられている。

【内容】
訳文(中国ガイドライン)
訳者考察

【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割

「【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」
渡辺賢治医師 (横浜薬科大学特別招聘教授)ほか 日本医事新報社(2020.4.18)※5

 ⇒⇒

この論文には中国・韓国・台湾のコロナウィルスに対する治療(台湾については予防も)
などについて述べられている。

「非医薬品」の民間薬も含めた、コロナウィルス対策の漢方医からの実践的なアドバイスも
記載されている。

医療従事者の方ではなくとも、ぜひ一読をおすすめしたい。

この論文を読んで、
中国のみならず、韓国や台湾でも伝統医学が治療に取り入れられていること、
治療のみならず予防が可能だということに、驚きを隠せなかった。

台湾のガイドラインには予防の処方に具体的な薬方が記載されており、
医療スタッフなどのハイリスクの人たちに対しての具体的処方についても
紹介されているという。

2000年も前の中国の古典には、すでに感染症に対する処方が記載されていたそうだ。

この論文を読んで、日本の漢方は、
日本の気候風土などにあわせてその古典の知恵を独自に発展させた医学だと知った。

漢方は日本の伝統医学だというのに何も知らないという自分にも大変驚いた。

日本における漢方治療の課題と解決策についても述べられている。
日本のコロナウィルス対策に、このような知見も活かされることを切に希望する。

【内容】

1.    はじめに
2.    2009年新型インフルエンザ流行時の漢方治療
3.    新興感染症に対する中国の対応
4.    中国新型冠状病毒肺炎診療方案第七案の中医治療ガイドライン
5.    韓国の伝統医療ガイドライン
6.    台湾の伝統医療ガイドライン
7.    漢方医学における感染症の考え方
8.    感染症予防における漢方の考え方
9.    COVID-19に対する漢方治療活用の実際
10.    日本で漢方薬をCOVID-19に使うための課題と解決策
(1)煎じ処方を活用するための煎じパックの活用
(2)漢方専門外来における感染対策としての初診オンライン診療の導入
(3)予防に対する保険漢方薬処方の規制緩和
(4)食薬区分の「専ら医薬品」に該当しない生薬の活用
(5)中国・韓国・台湾における伝統医療の知見の共有と生薬の確保
11.    まとめ

“新型コロナウイルスへの対策に対する緊急提案:木酢・竹酢の抗菌・抗ウィルス機能について

野村隆哉氏フェイスブック 2020.2.13、17、18、22、25投稿 ※10 

(野村隆哉氏:元京都大学木質科学研究所教官、現在(株)野村隆哉研究所所長
燻煙熱処理技術による木質系素材の寸法安定化を研究)

木酢、竹酢は木炭、竹炭を生産するときに生成される。

木酢・竹酢は、植物栽培の害虫よけ・土壌改良・植物の活性、
蚊などの虫よけ、犬・猫よけ、生ゴミ処理、家畜の糞尿脱臭などに
使用されている。

医薬品ではないが、アトピー性皮膚炎、水虫などに悩まされる人たちの間では、
木酢・竹酢は民間薬として割合によく知られているようだ。

燻製が腐敗を防止する機能をもつことはよく知られたことであるが、
木酢・竹酢はそれぞれ数十種類以上もの成分からなっているという。
それらの成分が複雑に作用してさまざまな機能を生む。

野村氏もまた、木酢・竹酢のデータを得ることの難しさについて触れており、
ご自身で成分分析機器を購入して検査した結果についても記載されている。

この緊急提案はフェイスブックでの投稿の形式であり、
内容を損ねることを避けるため、一部引用を控えたい。

全文はフェイスブックにてご確認願いたい()。

民間薬について

民間薬は世界各地で伝統的にもちいられてきたものが存在するという。
それらの知恵の恩恵を多くの人が受けられるように、
調査・研究が進むことを希望する。

なお、西洋医学以外の医療の利用状況について、
1993年に発表された大変興味深いアメリカの調査があった。

次項「なぜ西洋医学が日本で主流となったのか:日本における漢方の歴史」の
「まとめ」内に、「米国における西洋医学以外の医療利用についての実態調査」
の項目を立てて述べた。関心のある方はぜひお読みいただけたらと思う。

民間薬は今触れたように世界各地に存在するが、
ここでは梅肉エキスについて触れたい。

これからご紹介する赤本「家庭に於ける実際的看護の秘訣」※11は
大変古い文献であり、コロナウィルスに関する情報はない。

だが、以前のブログ記事にも書いた(記事)ように、
梅肉エキスの強力な効果について昭和24年の弘前大学での研究結果が
記載されており、目にした時から大変気になっている。

コロナウィルスにも有効な機能はあるのか、
科学者の方々にはぜひ検証していただきたいと思う。

この本は、元海軍衛生大尉築田多吉氏により執筆され、
大正14年に初版が発行された。

以下、一部引用する。

「梅肉のエキスから強力な抗菌物発見
(ペニシリン顔負けとして昭和24年11月「人間医学」発表)

弘前大学医学部佐藤興氏が同大学細菌学教室山本博士の指導の下、
梅肉のエキスの研究を3年にわたり続け、ついに純粋に近い抗菌性物質の摘出に成功した。
これをチフス菌、赤痢菌、ブドウ状球菌、大腸菌などに使用した結果、赤痢菌は6グラム、
その他の菌は9グラムで死滅すること、動物実験で注射しても毒性はないことが分かった。
発見者の佐藤氏は来る23日、盛岡の岩手医大で開かれる第3回細菌学会東北支部会で
研究の結果を正式に発表する。

(同大学細菌学教室)山本博士談 …今度の発見はペニシリンその他の抗菌性薬剤のように
菌の発育を防ぐのとは異なって菌の発育を阻止する以上に菌其のものを殺すと言ふ強力の点が
注目される。」

まとめ

有益な機能があるものの実証が行われることを、
エビデンスの収集とあわせて切に希望する。

なぜ西洋医学が日本で主流となったのか:日本における漢方の歴史

5世紀半ば

朝鮮(新羅の大使が来たのがきっかけ)を経て中国の古代医学がつたわった(※12:52~53頁)。

室町時代~宣教師から西洋医学が伝わる

イエズス会のフランシスコ・ザビエルが布教のために鹿児島に上陸(1549年)。
布教のために、神への奉仕として医療活動を無償で行って、
西洋医学の普及に貢献した(※13

江戸時代~新時代の学問としてのオランダ医学(蘭方)

江戸時代を通して、漢方医学は日本の医学の主流であり続けた。

その中でオランダ医学(蘭方)は新時代の学問として少しずつ
広まっていったようだ。

江戸幕府の鎖国政策により、
日本との交易が許されたのはオランダと中国のみとなった。

オランダの商館が置かれた長崎の出島の外には蘭学塾ができ、
新時代の学問としてオランダ語や蘭方を学びたいと多くの若者が
訪れるようになった。

1774年には、杉田玄白、前野良沢らがターヘル・アナトミアの邦訳、
「解体新書」を完成。

蘭方志向を後押しすることになる。

一方、1765年には漢方医の育成のため私塾がつくられ、
後に幕府官設の「医学館」となる。

(以上※13

アヘン戦争(1840~1842)

アヘン戦争の前、
清国(当時の中国)からの輸入超過に苦しんだイギリスは、
インドでアヘン(薬草からつくる製剤)をつくらせ
清国に輸出させるようになった。

それによりアヘンの吸飲が清国内に広まり、中毒患者も増えていった。
清国のアヘンの輸入は増加し、ついにはイギリスからの輸入超過に苦しむようになる。

事態の解決のために清国が打ち出したアヘンをめぐる輸入政策をきっかけに、
イギリスが清国に攻め込み、清国はイギリスに敗北した。

イギリスへの敗北が契機となり、
欧米列強による清国の半植民地化が進んだ。

日本は古代より中国の影響を大きく受けており、
アジアの大国清の敗北・半植民地化は日本にも大きなインパクトを与えた。

(以上※14)

ベリー来航(1858)から戊辰戦争(1868~1869)

明治維新を前に、
幕府軍と新政府軍が1年を越えて戦った。

1858年 ペリー来航。以後脱亜入欧、富国強兵の動きが急速に進む。

1868年 戊辰戦争が起こる(1869年まで)。
多数の重篤な戦傷者が幕府軍に発生。

日本人の漢方医、蘭方医の多くは対応できず、
イギリスの公使館医が招聘され、戊辰戦争の各地戦場で功績を上げる。

(以上※13,15,16

明治維新後(1868~)

1872年(明治5年) 学制(日本最初の近代的学校制度を定めた法規)制定。
医療については西洋医学中心の新しい教育制度となる。

同年、「智識を広く世界に求める」とする方針により
漢方医の育成所であった「医学館」が新政府により接収。
旧幕府の漢方医後継者育成拠点が消失。

(以上※13、17

医制発布(1874)から第2次世界大戦後

1874(明治7)年 「医制」制定

西洋七科にもとづく医師の試験制度、医業の開業許可が制度化された。
医師免許は西洋医学を履修したもののみに付与されることになった。)

ここで西洋七科とは、理科、化学、解剖、生理、病理、薬剤、内外科のことである。

医制では以下の3つが定められた。

①病院の開設には役所の許可が必要
②医師の開業には免許が必要(西洋医学を前提とする)
③免許をとれば、一定の設備を備えればどこでも開業できる

厚生労働統計協会が刊行している「厚生の指標」の記事(2016:※16)には、

医制は、
「現在の日本の医療制度に大きな影響を与えています」

と書かれている。

1883年 医師免許規則が定められ「医制」が全面的に実施

漢方医については、すでに開業している医師のみ開業を続けることができる
とされた。

1895年 漢医継続願の改正法案が出されたが否決

1933(昭和8)年「医師は漢方を標榜して門戸を張ってはいけない」との内務省令

看板のみならず、投薬袋、診察券にも「漢方」の文字を入れることが禁じられた。
(※12:18頁)

(以上、※12,16~18)

1970年代以降

1970年代
サリドマイドなど相次ぐ薬害により、西洋薬への偏りを危惧する声が高まる。

1976年 医療用漢方製剤33処方に保険が適用されるようになった。

1987年 保険が適用になる漢方製剤がさらに広がり147方となった。

2001年 文部科学省の医学教育コア・カリキュラムに漢方が盛り込まれた。

なお、2019年5月、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)に、
中国・韓国・日本の東アジア伝統医学が導入され、正式に採択された。

西洋医学のみであった国際疾病分類に伝統医学が導入されるのは
これがはじめてである。

現在、内閣官房健康・医療戦略推進本部で採用されている、
「アジア健康構想に向けた基本方針」では、
西洋医学と組み合わせた漢方治療を世界に発信する可能性について言及されている
(※8:2(4)

(以上、※6,8,17)

按摩・鍼灸はなぜ残ったのか

明治初期の医制によって、
按摩・鍼灸も漢方医学とともに廃絶が試みられた。

だが、1885年に事実上の継続が認められるなどして、営業の継続が
認められている。

「家で病気を治した時代」※19によれば、
按摩・鍼灸は薬代がかからず、庶民でも頼れる身近な医療であったため、
庶民が手放さなかったからだという。

以下、按摩・鍼灸の日本における歴史の流れを時を追って記載する。

【中国の古代医学伝来から医制が発布(1874)されるまで】

●日本の医療は漢方・按摩・鍼灸が併用される東洋医学が主流
●日本の医療の歴史の中で次第に3者が分業化
●社会的地位の高い漢方医と、庶民の治療をになう鍼医・灸医の間で次第にすみ分けができていった

【1874年医制発布後】

●庶民にとって西洋医学の病院は費用が高く、また馴染みのないもので
なかなか受け入れられなかった。

一方、按摩・鍼灸は庶民が安心して無理なく受けられる医学だったため、
庶民は手放すことができなかった。

以下の事実が伝えられている。

1882(明治15)年 東京・新島で医師から警察庁に嘆願書
「島民が医師の処方した薬を使用しないので説得してほしい」

1885(明治18)年 鍼灸の営業許可と取り締まりを各府県に委ね、事実上継続を認める

1911(明治44)年 「按摩術営業取締規則」「鍼術、灸術営業取締規則」全国統一法制敷かれる

【第二次大戦後】

1946(昭和21)年 GHQ「鍼灸禁止勧告」(野蛮な医療だと考えられたという)

東洋医学を見直す気運が高まってきていた当時、
鍼灸医療の有用性を認める医師が先頭に立って尽力し、
GHQの軍医や厚生省担当官を説得

1947(昭和22)年 「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び
柔道整復師等に関する法律」が制定:
従来の単なる営業免許が医師と同様の「国家資格免許」へと昇格

なお、
・指圧は鍼灸理論や按摩術などをふまえて明治時代に生み出された治療術
・柔道整復師は日本古来の武術(柔術)から生み出された治療術
である。

(以上※19:148-151頁)

まとめ

以上調べたところから、
以下のような状況で西洋医学が主流であり日本の伝統医学が傍流であるという状況が
生まれたのではないかと推察している。

江戸時代に入ってから西洋医学(オランダ医学)への関心は徐々に高まり、
東洋医学にはない長所も認識されるようになっていった。

「解体新書」の邦訳によって、
人体についての東洋医学の説明が誤りであったことがわかり、
漢方から蘭方に変えた医師もいたという。

江戸後期になると、
西洋文明を積極的に取り入れなければという政治的な気運が生じた。

東洋の大国中国がアヘン戦争でイギリスに敗れ半植民地化が進んだ。
アヘン中毒者が増加する窮状が日本にも明らかとなった。

その後日本にもペリーの「黒船」が来航するなど、
このままでは日本も植民地化されるという危機感が募る。

遣隋使・遣唐使など古代から日本は中国から大きな影響を受けていた。
伝統的な中華思想(中国中心・中国文化至上主義)の影響を日本も受けていた。

しかし、東洋の伝統にこだわり、
西洋文明の長所を取り入れることを怠っては植民地化される。
中国の二の舞を回避しなければならない。

それまで鎖国していた日本には一層強く感じられたのではないだろうか。

科学技術・経済・軍事力など、
とにかく西洋を目指す必要がある。

そして戊辰戦争が起こった。
多くの戦傷者を漢方では治療できない中で、
外科的治療に優れていた西洋医学の力がなおさら圧倒的に思われたに違いない。

日本の植民地化は目前、国内は戦乱。

東洋医学と西洋医学、それぞれの良さを吟味する余裕もなく、
西洋文明化をめざすという政治的判断により、
日本の伝統的医学は実質的に棄てられた。

ただ、庶民のくらしに密着していた按摩・鍼灸は禁止しきれなかった。
また、漢方もその素晴らしい力を理解する心ある医師や薬師により受け継がれ、
完全に途絶えることはなかった。

その後日本の歴史は、
日清・日露戦争、第二次世界大戦と西洋列強と肩を並べるための戦いが続く。
西洋文明を重視する気運が続いていたといえよう。

だが、赤本「家庭における実際的看護の秘訣」※11の中でも述べられているように、
戦時中物資が不足する中で、戦場においても家庭においても、
実際は伝統医学・民間薬の知恵が頼みにされ、その叡智が生きていた。

第二次世界大戦後、按摩・鍼灸の項で述べたように、
東洋医学を見直す気運は高まっていた。

昭和24年には弘前大学の研究室が梅肉エキスについて論文を発表している※11
記事)。

だが、その気運によっても漢方が西洋医学と同格に扱われることにはならなかった。

物が不足した時代、
人々は物の豊かさをもとめてがひたすら働いた。

戦勝国アメリカの圧倒的物量。
アメリカやアメリカ人の様子は日本人の憧れの的であったに違いない。
追いつき追い越せで、
西洋文明を目指す動きは失われるどころか加速していった。

また、占領政策としても日本の西洋化がさまざまな方面で進められていただろう。
鍼灸がGHQにより「野蛮」とされ禁止されそうになった背景からも窺える。

経済成長を遂げ、豊かになっていく日本。
物が豊かになり、機械化が進み、
汗を流して働かなくても生活の糧を得られる時代になっていった。

自然が身近な生活が遠のいていった。
自然の中に身体を癒す知恵をもとめた時代は遠ざかっていった。

しかし物が豊かになったことで別な問題が起こる。

相次ぐ薬害事件。
西洋薬では不定愁訴が治らないという声。

西洋医学だけでは十分ではないという実感が
一般市民の間で共有されていく。

そうした流れの中で政治が動いた。
漢方が社会保険下に採用された。

今では漢方が医学教育に取り入れられ、必須科目となっている。

世界保健機構(WHO)も世界の伝統医学を評価するようになっている。

非常に進みはゆっくりであるが、伝統医学にふたたび関心が注がれる時代になってきている。

このように見てくると、
漢方を政治的に廃絶しようとしてもしきれなかった日本の歴史が見えてくるようだ。

本当に必要とされているものは、
表面化にあらわれなくても受け継がれていく。

そうした動きは時間をかけて政治や歴史を動かす。

データがないだけで、
伝統医学が力を発揮している場面は日本のみならず世界においても
実は少なくないのかもしれない。

(そういった意味で、データは大変有用なものであるが、データを見るときには
その信用性だけでなく、データに現れていない事象があることも
十分心に留めておかなければならないと思う。)

米国における西洋医学以外の医療利用についての実態調査

米国における西洋医学以外の医療利用について、
大変興味深い調査があることがわかった。

ハーバード大学のアイゼンバーグ博士は、
CAM(補完代替医療とよばれる)の16種類について、
アメリカ国民の利用状況を調べたという。

1993年に発表された結果によれば、

・アメリカ国民の33.8%が少なくとも一つのCAMを利用
・CAMの実施施設への外来回数はのべ4億2,700万回に達した
・外来回数はかかりつけ開業医への外来回数3億3,800万回を大きく上回った

そうである。

一方でアメリカの研究機関によれば、
西洋医学以外の医学(補完代替医療とよばれているが、ここでは中立性を保つため、
「西洋医学以外の医学」という)について、アメリカの調査研究機関では
病気や予防について有効であるとの科学的エビデンスを確立できなかったという。

(以上※20

これについて、先に述べた
「漢方医学に関するデータの収集が困難」な状況を思い出した。

仮にエビデンスが得られないとしても、
西洋医学への不安を抱き、西洋医学以外の医学に救われる人たちがいるかぎり、
西洋医学以外の医学はこれからも頼りにされ続けるだろう。

明治時代の庶民は、頼りになる医療、自分たちでも手が届く医療として
按摩・鍼灸を手放さなかった。

その構造は現代も変わらないのではないか。

検査も治療もうけられない一般市民は、
「人を救う」ことに主眼が置かる伝統の知恵を求め続けるだろう。

2020年の梅は不作で卸値は8割高くなったが、売れ行きは好調だという。
梅は日本の代表的薬用植物の1つである。

(「ウメ不作で卸値8割高、開花早く実付き悪く 消費堅調 梅干し値上げも」
2020/6/25 日経新聞記事)※30

医療・医学において「人の命を救う」ことに価値が置かれ、
その価値観にもとづいて科学がさらに向上することを希望してやまない。

世界の伝統医学をめぐる動き

ここでは主として東洋医学について述べる。

コロナウィルスについて

中国、韓国、台湾では、それぞれ伝統医療のガイドラインが作成されている。

特に中国は、政府機関のガイドラインに伝統医療治療が組み込まれているという(※5)。

韓国、台湾は、コロナウィルス対策について国際的な評価も高く、
伝統医療も相当な貢献をしている可能性があるのではないか。

以下、「【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」※5
から、各国のガイドラインについて簡単にまとめる。

中国

COVID-19に対して、中医では「清肺排毒湯」が作られた。
軽症から重症まで幅広く用いられているという。
重症以上になると、中医注射剤が使われるそうである。

中医治療部分を抜粋したガイドラインは資料※5()に詳述されている。
興味のある方は資料原文をご覧いただきたい。

江夏方艙医院(臨時治療施設)

2月14日に、中医薬による臨時治療施設の江夏方艙医院が開設された。
太極拳や八段錦と呼ばれる体操や呼吸法のほか、
鍼灸やマッサージなども実施されたという。

2月28日時点の記事では、重症化の患者は見られず、
医療従事者の感染事例も見られなかったという。※21

韓国

急速に患者数が増えた旧正月明けに、大韓韓医師教会がガイドラインを作成。
中国国家衛生委員会のコロナ対策ガイドラインも加味している。

急速な患者の増加に対応できるよう、複雑な診断や追加教育を最小化し、
すぐに対処ができるように作成された。

初期、中期では、症状に応じて3~4のタイプの鑑別が可能になっている。
最重度の場合については、シンプルな治療方法が提示されている。
全体の処方数(薬の組み合わせ)は15個前後。

台湾

3月10日に、台湾国家中医薬研究所所長がガイドラインを作成。

中国、韓国のガイドラインに比べ、
予防の段階から具体的な処方の記載がなされている特徴がある。
西洋医学の医師でも理解できるように、伝統医療の表現が少なめに
なっていることも特徴的である。

医療スタッフなど、高リスクの人に向けた予防の処方も記載されている。

世界的な気運の高まり

現在世界では、伝統医学に対する気運が高まっている。

特に東アジア伝統医学(古代中国医学の影響を受けて中・韓・日で各々
独自に発展した医学)については、医療内容そのものに限らず薬品・医療器材など、
産業として発展させる気運が高まっている。

以下、東アジア伝統医学を含めた伝統医学に対する気運の高まりについて
具体的事実を述べる。

●2019年5月、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)に、
中国・韓国・日本の東アジア伝統医学が正式に採択

●アメリカでは、
・全米に 3 万人もの鍼灸師が存在
・米軍の正式な医療プログラムに鍼灸が含まれている
・1992年に国立衛生研究所(NIH)が代替医療事務局(現米国国立衛生研究所)設立

●漢方系の医学が国家単位で導入され始めている国は,
アジア圏のみならずオーストラリア,アメリカ,EU,アフリカ諸国に及ぶ

●EU やアメリカでは伝統医薬に関しては独自の審査基準を設置

● EUでは問題になる成分を含まなければ,
内部成分すべての解析や体内動態が不明でも,
伝統的な臨床の実績と,安全性の保障などがあれば薬剤として認可する方向

●ドイツでは公的な健康保険で鍼治療が認められている
(歴史的にドイツでは鍼治療が 18 世紀ごろから盛んである)

●世界的に、伝統医学は新しい発想での薬の重要な資源として考えられる傾向

ISO規格の場では,中国,韓国,日本間で、
東アジア伝統医学の工業製品や,
システムとしての知的財産や教育の方法論もパッケージとして標準化する議論が活発化
(中国と韓国は国家戦略であり、覇権争いの様相を呈してきている)

(以上※4,5

2010年ISOに中医学の委員会が発足

中国は国際標準化機構(ISO)に新しい委員会の設立を申し立て、
2010年に中医学の委員会が発足した。

天然薬物、製剤、医療機器、医療情報にわたる規格案が検討されている。

【ISO規格とは】

何らかの製品やサービスに関して、
「世界中で同じ品質、同じレベルのものを提供できるようにしましょう」という国際的な基準。

製品そのものだけでなく、組織の管理(マネジメントシステム)についてもISO規格がある。

規程や手順、そしてこれらを実際に運用するための責任・権限という組織の「仕組み」
に対してもISOによって国際基準を制定できる。

ISO規格により、伝統医学の薬や、たとえば鍼灸でつかう鍼などの器材、
また、医療システムとしての知的財産や教育の方法に至るまで
国際基準を制定することができる。

注意すべきは、
中国・韓国・日本の伝統医学を指す東アジアの伝統医学は、
中国の古典に影響を受けながらも、
各々の気候風土に合わせて独自の発展を遂げているということである。

中医学の委員会が発足は、伝統医学関係の産業化に貢献するものである一方、
一国の伝統医学がISO規格として採用されると、
それとは別に独自に発展した日本の漢方はその規格外とされる可能性がある。

日本東洋医学サミット会議のホームページ※31()に
以下のような記載があった(2020.6.27確認)。

「…医療情報を扱うWG5では、中医学のみの図式に則った提案が多く出され、
結果次第では中医学の考え方を中心にした言葉の定義や分類が国際標準となって
漢方医療の実践に大きな影響を与える恐れがある」
(「1. 概要」)

「ISO/TC249の構図は、モノと医療情報の国際規格策定を通じて東アジアの伝統医学を
中医学 (TCM: Traditional Chinese Medicine) とし、中医学を経済価値のある知的財産として
世界に拡大したい中国と、自国の伝統医学への影響阻止を図りたい韓国・日本、および
中国製品による健康被害を防ぐために標準策定に対して積極的なその他の国といった構造
となっている。
(「2. ISO/TC249の構造」)

日本東洋医学会・副会長の並木隆雄氏はこう述べる。

「今後,一国の伝統医学が「伝統医学」のISO規格として採用されては,
既存の伝統医学のレギュレーションの修正や,科学的でない国際規格の成立,
知的財産を独占し経済的利益を一国が得ることが懸念される。」
(※22

それぞれに発展してきた伝統医学が尊重される取り決めがなされる必要がある。

(以上※6、22)

2019年WHOの国際疾病分類(ICD-11)に東アジア伝統医学(中・韓・日)が導入

2019年5月、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)に、
中国・韓国・日本の東アジア伝統医学が導入され、正式に採択された。

西洋医学のみであった国際疾病分類に伝統医学が導入されるのは
これがはじめてである。

(以上※6

漢方をめぐる日本の状況

以下は漢方について述べる。
按摩・鍼灸、民間薬については手が回らなかったため記載できなかった。

なお、民間薬療法については、漢方医学であってもデータが収集しづらい状況であり、
関連するデータを収集するのはさらにむずかしいような印象を持った。

漢方業界の現状

以下、
「生薬国内生産の現状と問題」(2016)※23を参照してまとめる。

現状として、

「全体としての使用量および使用金額の増大にもかかわらず,
輸入生薬単価の上昇と保険薬価低下のために,業界に衰退傾向がみられる」

という大きな問題があるという。

国内漢方製剤の生産金額と生薬輸入量

国内生産金額は、

2009年  1,385億円
2010年  1,422億円
2011年  1,519億円
2012年  1,519億円
2013年  1,600億円

と増加傾向にある。

漢方製剤の使用量の増加に伴い、原料の生薬輸入量も増加傾向にある
(輸入量の6割、輸入額の8割は中国)。

生薬の平均価格

以下の通り、急速に上昇している。

2004年 424(円/kg)程度
2011年 581(同)
2012年 748(同)
2013年 899(同)
2014年 1099(同)

生薬の日本における保険薬価

資料※23に掲載の表を参照すると、
1981年から2014年までの推移では、
上昇しているものは例外的で、
おおむね下落傾向であり、50%以上下落しているものもある。

漢方・生薬およびその製剤類を扱う製造販売企業数

日本漢方生薬製剤協会(以下,日漢協)の調査によれば,
漢方薬・生薬およびその製剤類を扱う製造販売企業数は、

・1996年 31社
・2016年 14社

と半分以下に減少しているという。

生薬について

生薬とはエキスを製剤したものではなく、
煎じ薬として用いる漢方医学本来の漢方薬の形態である。

漢方医学本来の臨床効果を発揮するためには、
便利な製剤よりも、処方数が限定されない生薬が欠かせないという。

だが、国内産生薬が低価格の輸入生薬におされて生産量が減り、
輸入生薬の価格も値上がりするようになって、
生薬での治療そのものがむずかしくなりつつあるのが現状のようだ。

主な生薬の国内生産推移

1989年 2013年
生産戸数 生産量(㎏) 生産戸数 生産量(㎏)
ニンジン 2,602 495,737 18 7,138
オウレン 1,445 10,784 23 1,047
サイコ 4,669 219,868 543 29,473
トウキ 678 357,606 327 146,602
シャクヤク 359 241,348 151 5,447
サフラン 578 377 356 22

国家戦略について

中国は30年近く前に国策として薬草の生産に取り組み始めた。
中国内だけでなく、欧米からの需要も伸びて10兆円産業(2012年時点)に
成長しているという。※24

一方、日本における2012年時点の生薬自給率は12%程度である。

このような状況に対して、
現在、内閣官房で採用されている「アジア健康構想に向けた基本方針」で、
西洋医学と組み合わせた漢方治療を世界に発信する可能性が言及されている。

2019年度には、内閣官房により「『アジア健康構想』実現に向けた東洋医学の
エビデンス作成に向けた実証可能性等調査」が行われた(※5  「1.はじめに」)。

だが、肝心の国内生薬生産基盤は薬価切り下げが大きく響いて衰退しており、
和漢といわれる日本固有の漢方薬の生産も国内生産ではまかなえず、
種子が中国に持ち出されて生産されている。

こうした状況を改善すべく、
厚生労働省、農林水産省、日本漢方生薬製剤協会が協力して、
各地域で生産者と製薬会社とのマッチングを行うなどして、生産基盤強化を
支援している。

ただ、保険薬価が低く、生産コストに見合った収益を上げるのが難しい状況は
変わっていない。また、保健薬以外での需要は多くはない。

日本国内には生薬の市場がなく、良質なものをつくってもそれにより利益が
増加する仕組みがないという。

そもそも、日本固有の生薬でさえ、種子が中国に持ち出されて生産されており、
安価な輸入生薬に太刀打ちできない。

産業界の自助努力では、国際競争原理の中で基盤を立てなおすことは困難な状況にある。
保険薬価の低下の改善や、国家としての漢方医療に対するビジョンと政策なしには
生薬の国内生産の問題は解決できないといわれる。

また、日本の医療費の大幅な増加は、
諸外国に例を見ない急速な高齢化と高価な新薬・新治療の採用にあるという。

漢方薬はその問題の解決に役立つといわれる。

さらに漢方医学は、今回のコロナウィルスにおける中国・韓国・台湾の例からも、
コロナウィルスや今後起こり得る新たな感染症対策にも役立つ可能性が高いと思われる。

長期的な視野に立った本格的な国家戦略が急ぎ待たれる。

(以上※5、23、24)

漢方医学そのものが普及したとはまだいえない

今では(2012年時点)医師の9割が漢方薬を使うようになったと言われる。

一方で、それは「このような薬もありますよ」という使い方であって、
漢方医学そのものが普及したわけではないという。

日本は専門医も少ない。

2012年の段階で、

・日本東洋医学会の専門医:約2400人、
・中国の中医学の専門医:40万人、
・韓国の韓方医:2万2000人

という状況である。

(以上※23、24参照)

漢方医学についてのデータが少ない・取りにくい

先に述べた。

生薬栽培:薬価切り下げ、生薬の自給率の低下、事態改善への動き

渡辺賢治医師は2012年にこう述べている。

薬価は30数年前に制定され、その後、物価の上昇に伴い原材料費は上がりましたが、
逆に薬価はここ20年ほどで3割ほど下がっています。
ところが今度は中国内で生薬市場が急成長し、さらに欧米でも需要が伸びて、
結果として良品質の生薬が日本に入らなくなりつつあります。

(※24

薬価の切り下げのしわ寄せは生産農家にいき、生産をやめる農家が増加。
生薬の自給率が低下した。

この状態を改善しようと、薬用作物の国内生産に向けて,
農林水産省,厚生労働省ならびに日本漢方生薬製剤協会が協力し、全国で
生産者と製薬各社とのマッチングなどの活動を行っている。

その活動の中から、

優良種苗の確保、生産方法の確立、指導者育成、
農作業の機械化、農薬登録、品質保証の方法、
安定供給およびコストなどの課題

が認識され、さらにそれに対する支援事業・研究が
行われている状況(※23)のようだ
(「喫緊の課題として:生薬の自給率の低下(13%)と長期間かかる生薬栽培の実際」の項で
後述)。

医学教育

現在では大学医学部のカリキュラムの中で漢方の講座が必須になった。

ただ、現在も医師国家試験、薬剤師国家試験ともに西洋医学にもとづくものであり、
大学在学中に漢方医学や漢方薬を十分に学ぶことは難しい状況のようである。

医師国家試験の専門機関設置の検討について

漢方医学教育とは直接関係ないが、
日本の医師国家試験のあり方に問題提起をしている論文があり、
大変興味深かったので以下に一部引用したい(太字はブログ管理者による)。

日本全体が停滞しているようにみえる現状と問題点に共通があるのではないか。

論文は2007年のもので少し古いが、
医師国家試験の運営のされ方の大枠は当時と今とで大きく変化はないようである(※25)。

「日本の医師国家試験は厚生労働省…の医政局医事課試験免許室が主体となって,
毎年国家試験出題委員会を,4 年毎に医師国家試験改善検討委員会と
医師国家試験出題基準改定部会を立ち上げて,経験のある委員長を中心に運営されてきた.
米国のNBME…やカナダのMCC…などの組織によって運営される試験と比べた場合の
この方式の最大の問題点は,医師国家試験の結果の検証が十分出来ないという点にある
NBMEやMCCからは,国家試験レベルの教育学的研究成果が数多く医学教育学術誌に
発表されているが,日本の国家試験に関してのエビデンスは皆無である.
これはこのような組織の不在によるところが大きい.
韓国でもNHPLEB…という国家試験専門機関が設置され,
医師のみならず,歯科医師や看護師など約 20 の国家試験を担当している.」
(「「卒前医学教育の現状 4.医師国家試験の最近の動向」」(2007)※26

なお、韓国の国家試験専門機関のホームページ
Korea Health Personnel Licensing Examination Institute:※27)を見てみたが、

●基本理念に「患者中心」、「組織革新」など

●医師の国家試験に「臨床技能」の科目が設置
「患者とのやりとり」と「診察技能」が別々に配点

●書面審査より臨床技能の方が配点が高い

●伝統医学医師・伝統医学薬剤師の試験も別試験として有り

などがわかった。

日本の医師国家試験について厚生労働省のホームページ※28(⇒)を見てみたが、
詳細について多くは語られていなかった。

世界の伝統医学の中で日本の漢方が存続するために

先述のように、2010年ISOに中医学の委員会が発足している。

国際規格は国際的にも影響が大変大きく、
中国の伝統医学を独自に発展させた中医・韓医・漢方がともに存続し、
多様性が維持されるよう働きかけを続けていくことが必要である。

日本東洋医学会・副会長の並木隆雄氏は、
中国に比べて日本は人的資源、資金、時間が恒常的に不足しているという。
関係者の世代交代に対応する体制や方法を模索する必要があるとする。
(※22

この点でも、国としての政策が待たれる。

喫緊の課題として:生薬の自給率の低下(12%)と長期間かかる生薬栽培の実際

生産基盤の弱体化を改善すべく、
先ほども述べた通り厚生労働省、農林水産省、日本漢方生薬製剤協会が協力して、
各地域で生産者と製薬会社とのマッチング活動を行うなどしている。

そうした活動の中で、薬用植物の特殊性にもとづく課題が認識され、
農林水産省、厚生労働省では産地確率支援事業や技術開発など支援事業・研究が
おこなわれているようだ(※23)。

薬用植物の特殊性の詳細について、
以下、国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センター」
による研修資料(2016:※29)を要約する。

1)一作の栽培期間が長く,圃場の利用効率が悪い。
短いものでは半年程度(シソ、ヨクイニン)、
長いものでは5年(ニンジン、シャクヤク、ダイオウなど)

2)種苗が一般の種苗屋では入手困難

3)農薬類の使用がかなり限定されている

4)人力・手作業が多く,農業機械の活用は遅れている

5)収穫後に乾燥工程が必要(例えば,切り干しダイコン)

6)医薬品原料の場合,
・形状
・薬効成分の含量
などが規格に適合しているか等の品質評価必要(最低でも日本薬局方の基準を満たす)

7)農作物のように市場がない。販路はメーカーや生薬問屋との直接取引。

健康保険適用の医薬品原料となった場合は,薬価が公定価格として定められているため,
採算性が難しい(市場原理とは無関係)

8)加工や栽培に通常の農産物よりも手間のかかるものがある

加えて、指導者もかなり不足しているという。

栽培に5年かかるものがあると知って驚いた。生業として栽培を行う
難しさは想像に難くない。

生産農家が減っているが、一度栽培が途絶えれば、農地は
すぐに草におおわれてしまう。種子も発芽しなくなるものが増えていく。
技術も失われていく。

研修資料(※29)をみて、その規格の厳しさや、
出荷前の調整に大変手間がかかることにさらに驚いた。

現在漢方薬を処方する医師は9割に上るという。
こうした生薬は食料と同様に、自給率の低下は国の安全保障の問題になるのでは
ないだろうか。

国内で情報を幅広く共有し、多面的な解決策の議論が可能な状態にすること、
あわせて制度の見直し・新たな政策を希望したい。

これからの時代における持続可能な産業・雇用創出の可能性

今回、伝統医学や民間薬に関する資料を読んだり、
歴史やそのすばらしさを学んだりするうちに、
今の日本の閉そく感を打開する大きな可能性があるのではないかと思うようになった。

だが、薬用植物の実際の栽培について調べるに至って、大変きびしい状況にあることが
わかった。

薬価が数十年で切り下げられていること。
栽培期間の長さ。
生薬用の薬用植物の規格の厳しさ。
日本固有の漢方薬原料の種苗もすでに海外に持ち出されて生産されていること。
栽培農家の激減。
指導者の不足。

そもそも農業従事者は薬用植物分野にかぎらず年々減少している。
農村地帯にいるとその実状を肌身に感じる。

身体を動かし、汗をかき、仕事をするということ。
生きることを支える物や事を大切にすること。

薬用植物の栽培の現状も、
そうしたことをなおざりにしてきたことの1つの表れなのではないか。

それでも、
何か新しい発想をもって薬用植物栽培の問題を解決できないだろうかと思う。
広大な土地で大規模に生産するという発想とは別のアイデアも必要かもしれない。

日本独自の医学である漢方が西洋医学と合わせてより普及していくことで、
医療から農業、生活、思想にいたるまで、
大きな変化をもたらす可能性があるように思えてならない。

未知の感染症に対し、有効な予防・治療ができる可能性。

1つの医師免許で西洋医学と伝統医学双方を活かすことができる、
日本ならではの医療を発展させる可能性。

農業振興、雇用の創出、耕作放棄地の活用、地方活性化。

増加すると言われる、地方に移住を希望する若者の受け皿。

土に触れる仕事が再び増えることにより、
自然の中で生きるという、古くて新しいライフスタイルが創出される可能性。

漢方医学の世界観を取り入れることによる2項対立思考のあり方そのものの変化。

地域の医療を、地域で生産した生薬も使いながらできる可能性も生まれるのではないか。
それこそ優れた環境意識が生まれる元にもなる。

世界的に評価の高い産業が創出できる可能性もあるのではないか。

医学は武器でもなく、利益追求の道具でもない。
人を癒し、救う、その先に豊かさがある。
そうあるはずだと信じたい。

大切なものを守る経済。
大切なものを守れる経済。

漢方医学などの伝統医学と西洋医学双方の良さをとりいれた医学の創出に、
そのヒントがあるように思われる。

おわりに

少し調べてみようと思ってはじめたことが、
長いレポートのようになってしまった。

だが調べてみて、
自分が住む社会の制度や歴史や規範や教育が、
自分の考え方に大きな影響を与えており、
そのことに気がつくことさえできていないことがわかった。

自分が見ている世界がどれだけ狭いかということを実感させられた。

十分に調べられたとは言えないが、
日本の伝統医学には素晴らしい可能性があることも感じ取ることができた。

そして、世界の各地には同じように素晴らしい知恵があるだろうことも。

最後に、大変印象に残った文を2つほど引用させていただきたい。

「…『運命の血液‐再生不良性貧血との闘い‐』という本のあとがきに,
『私に対する問い合わせの中で最も多かったことは,漢方薬店名を知りたいということと,
現代医学にも東洋医学にも精通した医師を紹介してほしいということでした.
この事実は,現代医学の不備をよく示していると思います.私は病院生活の中で,
いつも後ろめたい気持ちがありました.それは,漢方薬を隠れて飲んだことです.
病院の殆んどは,容易には漢方薬を認めてはくれないのではないでしょうか.
医療は,現代医学とか東洋医学に片寄らず,病気の内容によってそれぞれの長所をもって
治療される日が一日も早く来ることを望んでおります。』とある。…」

「東洋医学的診察の西洋医学的診察との整合性と現代医療における臨床的意義」※7

「…一人一人がいのちというものに、
直接、触れることがなくなってしまった。
これは文明化であり、進歩ではあるのだろうが、
その反面いのちというものに対する実感が失われていったことは否めないだろう。
その結果、いのちを軽く見るようになってしまったのではないか。
ちょっとしたことで人を殺す、
殺人までには至らないものの人の命を平気で傷つけるといったことも
そのひとつではないだろうか。

といって、もちろん昔に戻れというのではない。
医学の発達、医療機関の充実はこれからもますます進んでいってほしいことである。
そしてそれがすべての人のものになってほしいことはいうまでもない。
だがそのことと、病気を人まかせにすることとは別である。
人まかせにしていれば、やがて医療そのものも、
われわれのためのものではなくなってしまうだろう。
現にそういう事態が起こっていることは、
薬害や医療事故、利益主義の医療、
危なくなってきた国民皆保険等々あちこちにみられる。

そこでもういちど、
病気も生も死も自分のこととして立ち向かっていた時代を振り返って、
そこから学ぶべきことを考えてみたい、また考えてもらいたいと思って
取り組んだのが本書である。…」

「家で病気を治した時代」小泉和子著 農山漁村文化協会出版 ※19:5~6頁

本、インターネットを通して、時代を問わず、
自らの損得を越えて生きる多くの志ある方々の思いに触れた。
ここに深く感謝を申し上げたい。

参考資料

※1 「第25号:中国伝統医学 ~「中医学」と「漢方医学」について~: 漢方医学をめぐる諸問題への対応策提言」 国立研究開発法人科学技術振興機構 サイエンスポータルチャイナ(2008.10.20)https://spc.jst.go.jp/report/200810/toku_wata.html 

※2 「漢方と民間薬百科」大塚敬節著 主婦の友社出版(1966)

※3「COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)」
小川恵子(金沢大学附属病院漢方医学科):日本感染症学会(2020.4.21)

※4 中外医学社ウェブサイト
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1487.pdf

※5 「【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」
渡辺賢治(横浜薬科大学特別招聘教授)ほか 日本医事新報社 2020.4.18

※6 「【座談会】漢方医学を世界の医学に 」医学書院(2019.11.18)

 

※7 「東洋医学的診察の西洋医学的診察との整合性と現代医療における臨床的意義」
深尾遼平,野瀬裕太ほか(明治国際医療大学)(2016) 

※8 「アジア健康構想に向けた基本方針 」(2018年改定)
内閣官房健康・医療戦略推進本部
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/suisin/ketteisiryou/dai22/siryou22_1.pdf 

※9 「中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告」
有田龍太郎(東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科)ほか
日本感染症学会(2020.4.21)

※10 株式会社野村隆哉研究所フェイスブック 

※11 赤本「家庭に於ける実際的看護の秘訣」築田多吉著

※12 新装版「漢方医学」 大塚敬節著 創元社出版(2001)

※13 大阪市中央区南医師会 日本医事史抄

 

※14 「詳説 世界史研究」木下康彦・木村靖二・吉田寅:編、山川出版社(2013)412-413頁

※15 「明治維新の際, 日本の医療体制に何がおこったか」
吉良枝郎(順天堂大学名誉教授, 自治医科大学名誉教授)(J-stage:2006)

 

※16 「第3回 日本の医療制度の特徴は,その歴史から生まれた(その1)」
(一般社団法人 厚生労働統計協会:2016)
https://www.hws-kyokai.or.jp/images/book/chiikiiryo-3.pdf 

※17 株式会社ツムラウェブサイト 「漢方の歴史」

 

※18 「漢方医学をめぐる諸問題への対応策提言」
渡辺賢治 慶應義塾大学医学部漢方医学センター長・准教授 )
(国立研究開発法人 科学技術振興機構:2008.10.20)

 

※19 「家で病気を治した時代」小泉和子著 農山漁村文化協会出版(2008)

※20 「米国NCCIH『国立補完統合衛生センター』とはどんなところなのか?」
光本泰秀(北陸大学薬学部 医療薬学講座代替医療薬学分野)
(2015.6.18:特定非営利活動法人 医療教育研究所)(⇒)

※21 「中国工程院の張伯礼院士、新型コロナウイルスに対する中医薬の有効性語る」
国立研究開発法人科学技術振興機構 サイエンスポータルチャイナ(2020.2.24‐28)

 

※22 「科学的根拠に基づいた伝統医学のISO規格策定をめざして」
(日本東洋医学会副会長・理事/千葉大学大学院医学研究院和漢診療学准教授)
医学書院(2019.11.18)

 

※23「生薬国内生産の現状と問題」東洋医学雑誌 Vol.68 No.3 270-280, 201(2016)

 

※24 対談「このままでは日本の医療が危ない」
渡辺賢治(慶應義塾大学医学部漢方医学センター副センター長、診療部長、准教授)、
加藤一郎(ジュリス・キャタリスト代表)
農業協同組合新聞(2012.09.19)

 

※25 「医師国家試験ができるまで(後編)」DOCTOR-ASE 日本医師会

 

※26 「卒前医学教育の現状 4.医師国家試験の最近の動向」
伴 信太郎(名古屋大学附属病院総合診療部)
日本内科学会雑誌第96巻第12号(2007.12.10)

 

※27 Korea Health Personnel Licensing Examination Institute

)

※28 厚生労働省ホームページ「医師国家試験の施行について」

(⇒)

※29 「薬用作物産地支援 栽培技術研修」資料
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センター:
客員研究員 柴田敏郎
(2016.9.2)
https://www.jadea.org/houkokusho/yakuyou/documents/H28yakuyou_touhoku_2.pdf 

※30 「ウメ不作で卸値8割高、開花早く実付き悪く 消費堅調 梅干し値上げも」
2020.6.25 日経新聞

 (

※31 日本東洋医学サミット会議のホームページ(
http://jlom.umin.jp/page2.html

以上
(2020.6.27)

  

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関連ニュースなど:

■日本伝統鍼灸学会:
『中国針灸学会制定「新型コロナウイルス感染症への針灸介入に関する手引き」(第二版)の
「日本語訳」配信あたって』
~予防のためのセルフケア養生法について記載されている
「鍼灸が免疫力を高めることで病的状態の改善や予防的な役割を果たすことは、日本鍼灸界においても、戦前・戦後を通じて実験・研究を積み重ね、実証してきたところです。例えば、その研究は、原志免太郎の『灸法の醫學的研究』(春秋社、1929年)などの業績に残されてい」るという

■「コロナにも効く?」「薬局はどう選べばいい?」第三波に備えるための漢方薬“4つのポイント”
ヤフーニュース2020年11月11日記事
(コロナウィルス後遺症に対する漢方薬の効果についても記載されている)

■ アメリカ疾病予防管理センター(CDC)ウェブサイト
Coronavirus Disease
旅行者向けに各国のリスクレベルを色分けした地図で紹介。
2020年12月3日確認時点で東アジア・東南アジアの一部のレベルは低くなっている。
・ベトナムのコロナウイルス対応について別記事に記載:
ベトナムのCOVID-19対応の成功(翻訳)~「早期検査・隔離」の徹底による対策と
ベトナムの伝統医学・西洋医学・中医学をいかした医療背景(記事⇒)

■柿渋が新型コロナウイルスを不活化させることを発見
:「新型コロナウイルスに対する研究成果について」2020年9月10日:奈良県立医科大学

■「しっくいに新型コロナ感染防止効果 長崎大と関西ペイントが発表」
西日本新聞( 2020.10.5 )記事

関連記事:

■翻訳記事(イベルメクチンについて):インド弁護士会がWHO主任科学研究員対して送付した法的通知書(

■人類を感染症から救ってきた土壌放線菌:世界各地でCOVID-19への臨床治験・研究がすすむ
イベルメクチン(既存薬:北里大学大村智博士開発)の有用性について(記事)

■ベトナムのCOVID-19対応の成功(翻訳)~「早期検査・隔離」の徹底による対策と
ベトナムの伝統医学・西洋医学・中医学をいかした医療背景(記事⇒)

自分を偽らずに仕事をする~Our World in Data の記事を訳しながら考えたこと:翻訳含む(PCR検査について4か国のアプローチ比較)(記事⇒)
※翻訳記事:「Testing early, testing late: four countries’ approaches to COVID-19 testing compared」(早期検査、時機に遅れた検査:COVID-19検査に対する4か国のアプローチの比較)

■「幸せの自転車」パリでは自転車がニューノーマルに~WHOの技術的ガイダンス(徒歩と自転車の優先)を受け、世界各地につくられる自転車用レーン【リサージェンス翻訳記事紹介】(記事)

■結核の克服を目指した医師・額田晋著「自然・生命・人間」
~どんなときでも希望と勇気を~記事⇒

カラスノビシャク(半夏:ハンゲ)を掘ってみました♪(10月後半)【薬になる草】(記事)

■畑で「カラスノビシャク(半夏:ハンゲ)」をみつけました!【薬草:漢方生薬】(記事⇒)

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■『竹』これからの新しい時代への可能性
~支柱から竹製品・災害対策・バイオ炭・健康・教育など
(記事⇒)
■「昭和の家事~母たちのくらし」小泉和子著、河出書房新社(2010)
:これからの時代に必要なこと~家事にひとつの答えがあるかもしれない
(記事⇒