混迷度が増すこの世の中で、子供に何を伝えるべきかを考えることがここ数年増えている。
まずは自分が教養を身につけなければと、時間の合間をぬって本を少しずつ読んでいるが、少し前に読んだのが「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」。
ギリシャ経済危機の時の元財務大臣だったヤニス・バルファキス 氏が書いた(関美和訳、ダイヤモンド社)経済についての本である。
経済がどのようにして生まれたのかからビットコインの誕生まで、大変わかりやすく、生身の人間あっての経済であるとの視点から離れることなく語られている。
思ったことのひとつは、経済をまなぶことの重要性はもちろんのこと、
「誰から学ぶか(誰の本を読むか)」
がそれと同じくらい重要だということである。
難解なことを難解に説明しない。
ともすれば本当はシンプルなことかもしれないことを難解に仕立て上げない。
それができるのはバルファキス氏に大きな志があるからだと思う。バルファキス氏は、
「専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうこと」だと言っている。
真の民主主義のためには、ひとりひとりが経済について知る必要があると信じるからこそこのような本を書くことができたのだと思う。
「人を支配するには、物語や迷信に人間を閉じ込めて、その外を見せないようにすればいい」
自分でも知らないうちに誰かが書いた物語の中に生きているのかもしれないと気づかされた。
ひょっとして、知らないということを知らないことが自分の中にはたくさんあるのではないだろうか。「仮想現実」だと認識できない「仮想現実」が想像以上に広がっているのかもしれない。
これは経済に限った話ではないと私は受け取った。
自分の人生の主人公になることは、自分にとって大切な判断を自分ですること。
判断をするには、まず知ることが必要だ。
知ることからはじまる。
いくつになっても常に学ぼう。
父が娘にむけたメッセージ。
「賢く、戦略的に怒り続けてほしい。機が熟したそのときに、必要な行動をとってほしい。
この世界を本当に公正で理にかなったあるべき姿にするために」
自分の子供にこのメッセージを言う前に、このメッセージを受けとれる自分でありたい。
学ぶことに希望を見出せる一冊。