図書館。
私は畑をするにのも、子供を育てるのにも、
たくさんお世話になっています。
その図書館でこの本を見つけました。
生きるための図書館
~一人ひとりのために
竹内悊著
岩波書店
今日はこの本の感想を書きたいと思います。
著者は60年以上も図書館にかかわってきました。
その著者が様々な角度から図書館の意義を語ります。
著者は戦後直後の日本を経験し、
文化革命直後の中国や、
1989年の東欧諸国の変革後の図書館も訪問しました。
その経験を通して著者が知ったこと。
それは、
「不安定な時期こそ、
確かなもの、新しいものを求めて人は読書をする」
ということでした。
本書の隅々から、
長く図書館に関わってきた著者の深い思索が、
うかがわれます。
図書館で配架されている本を何気なく見ていましたが、
これほどまでに深い配慮があるのかと驚きました。
多くの人たちの多年にわたる働きかけがあって
今の図書館があるのだと気づかされました。
本書の内容は子供の読書運動、図書館をめぐる国の施策、
学校図書館や地域での図書館をめぐる取り組み、
図書館が直面している問題など
多岐にわたります。
図書館の長い歩みが感じられる、
大変濃い内容の本書ですが、
著者の頭と心の中には本書に収まりきらない、
膨大な知識と智恵と思いがあるように感じられました。
私が強く心を打たれたのは、
著者のこの思いです。
一人ひとりに力がある。
一人ひとりが自分でその力を育てられるように、
一人残らずすべての人にその機会が与えられるように、
図書館は存在する。
困難な時代にあって、
日本の至るところに図書館が存在するのは大きな希望であることに
気づきました。
コラムでは、
インドの図書館の発展を1人で支え、
「一人の図書館運動」と言われた図書館学者、
ランガナタン博士について紹介されています。
高邁な精神に裏打ちされたランダカナン博士の実践を知ることができるのも、
本書の魅力だと思います。
ランダカナン博士には、
図書館を通した教育に対する思いもありました。
「本人が興味を持てないままに教え込まれた知識は、
その記憶がいずれ剥がれ落ちる。
自分の意志で学ぶことが大切なのだ。
それによって人は成熟し成長する。
それによって自分を築き上げた人たちは国や自治体にとって『人という富』になる。
その人たちの現在のために図書館を建て、
学ぶ意欲を育てることで、
将来、国や自治体に、現在図書館に投じる10倍もの富が戻ってくる。
今の図書館の経費は将来に生きる点で、健康保険と同じだ。」
著者もこのように語っています。
「…教育とは集団で行うものと考えられているようです。
しかし、その教育の受け手からいえば、
それに乗り切れない自分がある。
そこに、成績評価とは関係のない司書から、自分に適した援助が得られ、
それにより自分が選ぶことを重ねて力を育て、
問題を解決することが期待されます。
ただ、その力がいつ発動するかはわかりません。
それを『待つのが』図書館です。」
人を育てるのは、
本当の富を築くのは時間がかかる。
待つことの大切さ。
今の自分に、
世の中に、
必要なことだと感じます。
図書館での本との出会いは、
著者をはじめ本の出版にかかわった人たちとの出会い。
深い配慮をもって選書・配架等をしてくれた図書館の人たちとの出会い。
図書館でしか得られない出会いがある。
自分で選んだ本だけではなく、
選書され、配架された本を通して多くの人たちと出会うことで、
それまで気がつかなかった自分の中の可能性に気づくことができる。
気づくからこそ伸ばすことができる。
図書館への見方が変わる一冊であり、
著者の情熱に力をもらえる一冊です。
おすすめです。
お読みくださりありがとうございました。